国際級ホテルと国際空港の現場から。学びと実践の先に見えてきた観光の未来 | 横浜商科大学
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YCC MAGAZINE
Beyond YCC - 学びの向こう側

国際級ホテルと国際空港の現場から。

学びと実践の先に見えてきた観光の未来

大学での学びは、その先にどのような道を拓くのでしょうか。
記事企画「Beyond YCC – 学びの向こう側」では、さまざまな分野で活躍する学生や卒業生にフォーカスし、学びの先に広がる世界をご紹介します。

今回ご登場いただくのは、国際級ホテルのプライマリーローテーションとして“皿洗い”からキャリアをスタートし、今は現場全体を束ねる宿泊部の次長として働く竹本寛さん、そして、国際空港運営の現場で経験を積み、海外駐在などを経て、国際空港の施設運用の中核を担っている木村葵さんです。

お二人はともに貿易・観光学科(現:観光マネジメント学科)で学び、今は日本の観光産業の最前線で活躍する卒業生です。

国際級ホテルと国際空港というフィールドは違っていても、お二人に共通しているのは、現場を深く知り、所属企業の代表として行政の仕事にも携わり、さらにMBA(経営学修士)を取得してマネジメントの道を歩んできたことです。日々の現場で汗をかくだけでなく、社会の仕組みにも向き合いながら、経営の視点を身につけてきたお二人のキャリアは、これから観光業界を目指す学生にとって、一つの指針となるはずです。

今回は、お二人の恩師である長谷川順一郎教授(観光マネジメント学科)を進行役に、大学時代の思い出から、観光業の現在地、そしてこれからの社会で求められる力まで、じっくり語り合ってもらいました。

竹本&木村

竹本 寛 さん

写真左側

商学部 貿易・観光学科(現:観光マネジメント学科)
卒業生(2000年度卒)

[所属企業]三菱地所ホテルズ&リゾーツ株式会社
      ロイヤルパークホテル東京日本橋 宿泊部 次長

[取得学位]立教大学大学院ビジネスデザイン研究科
      ビジネスデザイン専攻修士課程(経営学修士:MBA)

[出向]国土交通省 総合政策局 観光地域振興部観光地域振興課(当時)
    国土交通省 観光庁 観光資源課
                                  

木村 葵 さん

写真右側

商学部 貿易・観光学科(現:観光マネジメント学科)
卒業生(2007年度卒)

[所属企業]日本空港ビルデング株式会社
      施設管理部 施設管理課 副課長

[取得学位]北京大学 School of Economics Executive MBA

[出向]国土交通省 総合政策局 海外プロジェクト推進課
                                  

竹本 寛 さん

写真左側

商学部 貿易・観光学科(現:観光マネジメント学科)
卒業生(2000年度卒)

[所属企業]三菱地所ホテルズ&リゾーツ株式会社
      ロイヤルパークホテル東京日本橋 宿泊部 次長

[取得学位]立教大学大学院ビジネスデザイン研究科
      ビジネスデザイン専攻修士課程(経営学修士:MBA)

[出向]国土交通省 総合政策局 観光地域振興部観光地域振興課(当時)
    国土交通省 観光庁 観光資源課
                                  

木村 葵 さん

写真右側

商学部 貿易・観光学科(現:観光マネジメント学科)
卒業生(2007年度卒)

[所属企業]日本空港ビルデング株式会社
      施設管理部 施設管理課 副課長

[取得学位]北京大学 School of Economics Executive MBA

[出向]国土交通省 総合政策局 海外プロジェクト推進課
                                  

INDEX

キャリアの原点は「現場」にあり。観光の最前線へと至る道

長谷川: 今日はお忙しい中、集まってくれてありがとう! こうして元ゼミ生のお二人と再会できるのは、この上ない喜びです。それぞれのフィールドで経験を重ね、今や業界の第一線で活躍しているお二人に、改めてその歩みを伺いたいと思います。まずは、これまでのキャリアの紹介からお願いできますか。

竹本: 2001年に現在のホテルグループに入社し、皿洗いやベルパーソンなど、現場の仕事からスタートしました。その後、営業部門で経験を積む中で転機となったのが、当時創設された国土交通省観光庁へ出向したことです。そこで、国の観光政策や、観光を担う人材育成の仕組みづくりに関わりました。 ホテルに復職してからは管理部門を経て、現在は宿泊部の次長として、フロントや客室管理、販売戦略など、部門全体を統括しています。とはいえ、忙しい時は今でも現場に出て、お客様のお皿を下げたりもしますよ(笑)。

長谷川: 「いざとなれば現場に出られる」のが、現場を知っている人の強みですよね。木村さんはどうでしょう。

木村: 私は2007年に羽田空港の旅客ターミナルを運営する会社に入社しました。きっかけは、就職活動中に当時の首相が「羽田空港を再び国際化する」と発表したニュースを見たことです。「日本の新しい玄関口をつくるなんて、こんなエキサイティングなことはない」と直感し、この会社を選びました。 成田空港での現場研修や国際営業を経て、中国・北京に5年間駐在し、現地の新空港立ち上げなどに関わりました。帰国後は国土交通省へ出向し、日本企業の海外インフラ展開を行政の立場から支援する業務に携わりました。現在は本社で、空港内のテナントリーシングや料金施策の策定などを担当しています。

長谷川: お二人が入社なさった会社はまさに一流企業であり、入社試験の競争率も非常に高いことで有名です。お二人とも、それを見事突破なさいました。そして入社後は現場と行政の仕事の両方を経験し、さらにマネジメントの視点も持ち合わせた、叩き上げの強さがありますね。

学んだのは「準備」と「感謝」。プロの土台を築いた濃密なゼミ

長谷川: 学生時代も振り返ってみましょう。なぜ横浜商科大学を選び、そして私のゼミを選んだのか。正直に言っていいですよ(笑)。

竹本: 高校生の頃から国際級ホテルに憧れがあって、観光を専門的に学べるこの大学を選びました。ただ、入学後は少し気が緩んでしまって。目標があって入ったはずなのに、「このままでいいのかな」という焦りも感じていたんです。そんな時、「長谷川先生のゼミはやたら厳しい」という噂を聞きまして。

長谷川: やたら厳しい?(笑)。

竹本: 「今のままではまずい。あえて厳しい環境に身を置いて鍛え直そう」と、意を決して長谷川先生のゼミに入りました。

長谷川: チャレンジャーっていうことですか?(笑)。長谷川ゼミはいつの時代も、明るく志の高いチャレンジ精神旺盛な学生が集まってきますよね。

竹本: でも結果的に、それが大正解でした。先生から教わった礼儀作法、時間厳守、感謝を伝える姿勢。当時は厳しいと感じましたが、社会に出ると、そのすべてが仕事の基礎になっていると気づきました。コロナ禍で業界全体が苦しかった時も、周囲への感謝の気持ちを持ち続けられたのは、先生の教えがあったからです。

児玉

長谷川: 礼儀や姿勢のことだけでなく、論文指導もしっかり行いましたね。

竹本: はい。「論理的に考える」「課題を見つける」「解決策を模索する」というプロセスは、ホテルの仕事そのものですし、今も本当に役に立っています。

木村: 私は「海外を飛び回れる仕事がしたい」という思いがあって、貿易・観光学科のある横浜商科大学に進学しました。地方からの上京は大きな決断だったので、「行くからには必ず結果を出す」と覚悟を決めていたんです。 そこで、入学時に「4年間をどう使うか」を逆算して、1年目は初めての一人暮らしを上手くやりながら全単位好成績での単位修得、2年目は旅行業の国家試験にダブル合格、3年目は留学、という具合に計画を立てて実行しました。

長谷川: 大谷翔平選手のように、ゴールから逆算して動くタイプだね。実際に3年生では、学費免除の交換留学制度を使って北京第二外国語学院に1年間留学しましたよね。現地で大きな反日デモがあった時、心配して国際電話をかけたら、ルームメイトに「葵は今いません。友人たちとサッカーしています」って言われて(笑)。安堵しつつも拍子抜けしたのを覚えています。

木村: 私もよく覚えています(笑)。

長谷川: 現地で友達をつくるにはスポーツが強い。そこも一種の「現場の力」ですね。社会人になってからもその姿勢は変わらず、後輩たちのフィールドワークで羽田空港を案内してくれた時も、事前準備から説明まで申し分のない対応で、学生ともども大いに感動しました。

木村: その準備の姿勢は、まさに長谷川先生のゼミで叩き込まれたものです。先生はいつも「準備が大事」とおっしゃっていましたよね。企業を訪問してプロの方々と対話するフィールドワークの前は、訪問先を徹底的に調べて、質の高い質問を用意する。そうして臨むことで、限られた時間での学びは何倍も深くなるんだと。「一分一秒を、いかに濃くしていくか」を意識することの大切さを、ゼミを通じて学びました。

竹本: 企業を訪問した後、「必ず心を込めたお礼状を書く」ことも徹底されていましたよね。相手にしっかり感謝の気持ちを伝え、末永いご指導をお願いする。あの時に学んだ礼節やホスピタリティ精神は、今の仕事に直結しています。

木村: そうした教えのおかげで、当時訪問先でお会いした外資系航空会社の方とは、今も交流が続いています。学生のうちに現場の最前線に触れ、そこで働く方々の生の声を聞けたことで、航空業界で働くイメージが明確になりました。入社後のギャップが少なかったのも、あの経験があったからこそです。 そして何より、先生の「前向きでいること、周りを大切にすること」という言葉は、今も大事に胸に刻んでいます。中国駐在中の孤独な環境でも、その姿勢に何度も助けられました。

外の世界で知った「自分の現在地」。視野を広げた出向とMBA

長谷川: お二人とも、新卒者として入社した企業において生え抜きとして活躍、その企業を代表して監督官庁である国土交通省への出向も経験し、さらにMBAも取得されています。まず、現場を離れて「外の世界」を見た出向の経験で、特に印象に残っていることは何ですか。

竹本: 観光庁の立ち上げ準備期に関わったことは、今でも強く印象に残っています。「公務員なら定時で帰れるのかな」なんて甘く考えていたのですが、現実は真逆でした。人材育成のカリキュラム作成や法律の整備に追われ、終電後のタクシー帰りの日々が続きました。 決して楽ではありませんでしたが、その中で得た一番の財産は、圧倒的な刺激と人脈です。省庁をはじめ、航空、鉄道、旅行会社から集まった同世代のメンバーと働く中で、「自分はホテルの一部のことしか知らないんだ」と強い劣等感を覚えました。あの時、同じ目標に向かって必死に働いた仲間たちは、今も仕事で助け合える大切な存在です。

木村: 私は国土交通省への出向を通して、民間にいると見えにくい行政の考え方や、省庁間の調整の難しさを内側から知ることができました。そこで実感したのは、相手を思いやって自ら先に動く、「ギバー」としての姿勢の大切さです。見返りを求めず、まずは相手を支える。そうした積み重ねが信頼につながり、結果として省庁の壁を越えた協力も得られるようになりました。

長谷川: 外の世界に身を置くことで、自分の立ち位置や仕事の見え方が大きく変わった、というのは興味深い共通点です。では、実務での経験に加えて、あえて経営を体系的に学ぼうと思ったのは、どういう理由からだったのでしょうか。

木村: 将来、より高いレベルで仕事をするために、早いうちに実務を裏付ける理論をきちんと学びたいと思っていました。中国駐在中に北京大学のExecutive MBAに通ったのですが、そこで得た学びは、今の仕事にとても活かされています。 当時の中国では、電子マネー決済やCRM(顧客関係管理)などといったリテールの仕組みが、日本よりはるか先を行っていて、その進化を現地で肌で感じられたことも大きな収穫でした。2019年に帰国してからは、「この現状をなんとか社内に伝えたい」という思いを持ち続けてきました。その後、機会を得て自ら社内講師を務め、現地の経済状況やマーケティング手法を紹介しました。そうした取り組みを通して、社内の理解も深まり、今では新しい取り組みとして事業が進められています。

竹本: 私の場合は、出向先で感じた劣等感と、現場を知るほど湧いてきた「どうすればホテルの価値を最大化できるのか」という経営的な疑問がきっかけでした。知識ゼロで飛び込んだMBAの授業は正直、かなりハードでしたが、修了後は仕事への向き合い方が大きく変わりました。 プラン一つを考えるにしても、ただ中身を詰めるだけでなく、「誰に、どう売り、どう利益を出すか」と全体像を意識して考えられるようになったんです。こうした一歩引いて全体を見る姿勢は、部下が増えてきた今、一人ひとりをどう成長させるかという人材育成の面でも、大きな指針になっています。

長谷川: お話を伺っていると、MBAでの学びは単なる知識の修得ではなく、現場での経験を「判断基準」へと鍛え上げていくための大切なプロセスだったのだと感じます。なお、竹本さんは謙遜して劣等感とおっしゃいましたが、竹本さんは幹部候補生として、通常では経験できないような業務も立派に行って知見を深めてきました。観光庁や業界において、竹本さんを尊敬のまなざしで見ているひとも多いと思います。

観光は世界とつながる成長産業。鍵を握るのは「人の力」

長谷川: 業界の第一線にいるお二人から見て、日本の観光業の未来をどう感じていますか。

木村: メディアでは観光業の厳しさが取り上げられることも多いですが、データを見ると、印象はずいぶん変わります。2025年の訪日外国人数は4,000万人を超え、日本国内での消費額も9兆円規模に達すると予測されています。これは、日本の輸出産業の柱である自動車に次ぐ規模です。日本経済が停滞していると言われる中で、2030年に訪日外国人数6,000万人を目標に日本が取り組んでいることを踏まえると、観光は間違いなく数少ない「成長産業」だと思います。

竹本: ホテル業界も、その勢いは日々実感しています。私の働くホテルは開業から35年以上経っていますが、客室単価は今過去最高を更新し続けています。インバウンド需要の伸びもあって、現在はお客様の約75%が海外からの方々です。

木村: もちろん、課題もあります。東京や京都など一部の地域は活況ですが、地方空港への直行便や受け入れ態勢は、まだ十分とは言えません。私たちは、地方も含めた日本の航空旅客数を最大化し、観光の恩恵を全国に広げていけるよう、今一歩ずつ歩みを進めているところです。

竹本: そうしたハード面の充実に加え、現場の受け皿となる「人」の存在も不可欠です。中でもホテル業界は、需要に対して現場を支えるスタッフが圧倒的に足りていません。多様なバックグラウンドを持つスタッフをどうまとめていくか。そして、女性が継続してキャリアを積める体制をどうつくるか。こうした仕組みづくりが、産業としての強さを左右します。まさに変革期だからこそ、しっかり観光を学んできた学生さんには、ぜひ次代の担い手としてこの業界に飛び込んできてほしいですね。

長谷川: 戦略やデータも大切ですが、それを動かすのは、やはり「人の力」ですね。

木村: 課題が多いということは、裏を返せばそれだけ伸びしろも大きいということです。大学と業界が手を取り合って、観光業の魅力をこれからもっと発信していけたらうれしいですね。

優しすぎる時代こそ、「学び続ける力」が未来を拓く

長谷川: では最後に、後輩たちへメッセージをお願いします。

木村: シンプルなことですが、まずは「感謝と思いやり」を忘れないでほしいです。これまで国内外で多くの方と働いてきましたが、充実した顔で仕事をしている人は、自然と思いやりに溢れ、周囲に感謝を伝えられる人ばかりでした。 もう一つは、学び続けてほしいということです。社会人になっても貪欲に新しいことを吸収しようとする人のもとには、必ず次のチャンスが巡ってきますし、いざという時に後悔もないはずです。

竹本: 今の社会は、ある意味で「優しすぎる」と感じることがあります。ハラスメントへの配慮などから、上司や先輩が昔のように厳しく叱る場面は少なくなりました。それは働きやすい一方で、「誰も自分の弱点を指摘してくれない」という怖さでもあります。 だからこそ、これからは自分で自分を厳しく律し、自ら学ぶ姿勢が大切になります。「教えてもらうのを待つ」のではなく、自分からチャンスをつかみに行く。少し背伸びをして新しい世界に飛び込む気概、チャレンジ精神があれば、観光業界にはいくらでも活躍の場が広がっています。

長谷川: 大学の学びは、教室の中だけではありません。自ら現場に出向き、入念に準備し、人と出会って礼を尽くす。そして振り返り、自分の言葉でまとめていく。その積み重ねこそが、社会に出た時の自分の軸になります。 そうした学びを体現してきたお二人のお話が、これから進路を切り拓こうとする皆さんの背中を押すきっかけになれば、とてもうれしいですね。

鼎談に先立ち、お二人については長谷川教授から、
吉原理事長、羽田学長、小島学部長、竹田学科長、秋山准教授にご紹介がなされました。



吉原理事長、竹本さん、長谷川教授、木村さん、羽田学長、小島学部長



竹本さん、竹田観光マネジメント学科長、木村さん、秋山准教授、長谷川教授