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概要

ビジネスフロンティア

6に、安易な、まして種撒きなど考えない事業参入が目立つこと、その結果うまくいかない、当該地域も事業失敗コストを抱え込む例が目につくことに危機感を覚えます。田川 羽田先生がおっしゃったように、我々は刈り取りと並行して、常に種撒きを行っていかなければなりません。なぜならば、世界の情勢を一変させる政治経済上の事件や大規模な感染症が起きれば、急激に伸びているインバウンドが明日突然ゼロになる可能性だってあるのです。観光業界は常にそういったリスクを前提にビジネスを構築し、構造を再編する必要性もあると思います。観光業の裾野は非常に広い羽田 観光について学びながら、観光関連の仕事を選ぶ学生が思いのほか少ないという現実があります。観光業界の労働条件が他業界と比べた時どうか……という点が大きな原因ですが、実際のところ労働生産性の低さは、観光ビジネスに内在する課題だと考えています。宿命的とも言える需要の時間変動・曜日変動・季節変動の問題も大きいとは思いますが。田川 日本ではサービスというものの価値がなかなか財化しないのです。分かりやすい例だと「チップ制度がない」ことでしょう。以前外国人の知人が「日本人にサービスしてもお金を払って貰えない」と言っていましたが、そもそも日本人にはそういった概念がなく、サービスは受けて当たり前という感覚なのです。そのような業界でどうすれば高収益を上げられるか。代理店仕事だけに留まらず、「川上」に上るのも一つの手だと思います。羽田 自分たちで宝物を探し、自分たちで商品化して販売するという、メーカー的な発想が必要ということですね。田川 そうです。そういう努力をしていかないと今の時代は厳しいと思います。あとは、90年代から「安いことが正しい」という風潮が続いていて、ともかく価格を下げて売るという慣例が出来上がっていますが、「本当に価値のあるものは、適正価格であれば高くても売れる」という認識に立つべきだと思います。羽田 「価格相当の価値」「記憶に残る経験価値」を得ることが理解されれば、お客様は必ず購入してくださると。田川 あとは、観光に関わる仕事を、どこからどこまでへと捉えるかでも違ってくるとは思うのですが、個人的には観光を勉強した学生が、商社へ行っても、メーカーへ行っても、行政へ行っても良いと考えています。むしろ、観光という観点から発想できる人材が、様々な業種業態に存在し、活躍しているという状況の方が、これからの「日本の観光」には重要なのではないかと思います。そのためにはやはり、学生の皆さんには広い視野で、大いに学んでいただきたいですね。Tagawa Hiromi1971年株式会社日本交通公社(現株式会社ジェイティービー)入社。2000年取締役営業企画部長。2002年常務取締役、2005年専務取締役、2008年代表取締役社長、2014年より現職。一般社団法人日本旅行業協会会長、日本エコツーリズム協会副会長 等Hada Koji1974年株式会社日本交通公社入社、同時に財団法人日本交通公社に移籍、調査部に所属。1998年横浜商科大学に奉職、現在に至る。内閣府専門委員、神奈川県真鶴町まちづくり審議会会長、群馬県沼田市観光活性化推進協議会会長 等一度取り戻さねばと思うのです。羽田 そして常に先を見つめた布石を打ち続けることが大切ですね。観光業は種撒きをして刈り取りに至るまでに、非常に長い時間を要します。JTBさんが地域に密着した取り組みを始めたのも昨日今日の話ではなく、随分昔からです。郷土の祭りや芸能を掘り起こし、一堂に集めて楽しんでいただこうというコンセプトの下に昭和56年に始まったイベント商品である「杜の賑い」などはすでに開催回数が100回を超え、地域における伝統文化の保護育成、若者達の創作芸能への支援にも大きく寄与しています。私も財団JTB調査部時代にコンセプト企画段階で関わっただけに感無量の取り組みです。田川 地域交流ビジネスもようやく刈り取りをという段階まで来ました。ただ、マーケットがとても大きくなったことで、刈り取りを専門にする会社がたくさん現れてきました。羽田 盛り上がりだけを考えれば嬉しいことなのかも知れませんが、私など傍目でみていて、本来観光ビジネスは専門性が要求されるのHada Koji × Tagawa Hiromi